一種の方言漢字とも言える。石川県のとある樹木について【档】

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能登半島の魅力

令和の大震災が起こる前に訪れたことがあるが、能登は素晴らしい街だった。

まず形がいい、なんだあのぴょこっと出たチャーミーさは。男鹿半島や佐田岬みたいに、どこか「踏破しておきたい欲」を掻き立てられる。ご存知石川県北西部の、本州についているフックみたいな形をしたあの部分だ。バカリズムはあれをどう持ってたかな。

持ちやすそう(?)

もちろん能登という街にも好きになったところが沢山ある。半島の先の先まで車を走らせるワクワク感、禄剛崎ろっこうざきから見る日本海に富山湾。その荒波を生き抜いたノドグロやブリは脂がほどよく乗って絶品だし、雪解け水はおいしいおいしいコシヒカリを育ててくれる。道中食べたおにぎりは、片道n時間の車の旅がそれだけで報われるような美味しさだった。

おにぎりと「かかし」(๑´ڡ`๑)
北陸といえばやはり海鮮。大盤振舞がすぎる

あと白米千枚田しろよねせんまいだがマッッジで綺麗。僕が行ったときは田植え前の時期で天候も若干ぐずついていたけど、目の前を埋め尽くすような田んぼにこれまたどこまでも続いていくような海を見てると、米と魚を育むこの地を独り占めにできたようで気分がいい。ぜひ麓の道の駅でおにぎりでも買って、棚田を眺めながら食べてほしい。

田んぼはぼーっと眺めてるだけでも楽しいもんである

全国的にも有名な高級漆器である輪島塗、突然の廃絶から復活しみごと中世と現代の融合を遂げた珠洲焼。魚も肉も野菜も米も器でさえも能登で生産され、なぜか食べたあとにその箸をもらって帰ることができる能登丼。などなど、その魅力は留まるところを知らない。日本三大朝市である輪島の市場も今は震災復興に励んでおられるようだが、またあの土地の恵みに触れに訪れたいと思うし、その日常の賑わいが少しずつでも戻っていくことを、遠くから願っている。ふるさと納税もする。

能登丼。本体の写真はどっか行ったが美味しかった

あて??

当時滞在していた民宿は、その客室に樹木の名前を当てていた。桜とか柏とかよく見る樹があった気がする中で、档という部屋があるのが気になった。

木当タ?いや横は数字の7

ご主人に聞くと、アテという名前で石川県にある木を指すそうだ。その時のメモをには、能登ヒバを「あて」と呼びこの字を当てていると書いてあった。その時に建材としても使っていると伺ったのだろうか?宿の柱や天井なんかの写真が何枚か残っていた。

単に旅行中に知らない文字を見つけたということに過ぎないのだけど、それが地域の方言と関わっていそうというのは嬉しい出会いだった。旅行中に見聞きしたこと、あとから調べてみたことを雑多にまとめ、「あて」について理解を深めたいと思う。

生えてる档を見に行こう

能登にいるうちに、まずは档の樹を見に行った。档は石川県の県木に指定されており、ググるといくつか生えている場所に辿り着く。石川県健康の森もそんな場所のひとつ。

档の木!

今でもあまり区別はついていないのだけど、ヒバはアスナロの変種であるヒノキアスナロのことを指すそうだ。アテも同じく、ヒノキアスナロを石川県でそう呼んでいるっぽい。よって档も針葉常緑樹であり、樹木素人のぱっと見では杉とかに近いシルエットだなと思った。

実家にコニファーと呼ばれている庭木があったが、あれとも似ている。冬場にはクリスマスツリーにもなりそう(?)

档の葉。扁平で肉厚な感じ伝わるかな?

葉っぱを見てみるとこんな感じ。昔中国でこんな野菜を食べた気がする。スギやヒノキと比べると葉っぱは扁平で密度が高い。

また、近辺には樹齢800年にもなるという「档の元祖」というものもある。遠巻きではあるが注連縄も巻かれており、地域の人に大事にされてともに歩んできた木なんだなーとも感じた。また、この木が元祖だとすると鎌倉時代あたりに档のルーツがあるのかもしれない。

元祖とされる档。注連縄が巻いてあるちょい捻れてる2本
裏から。県指定の天然記念物になっている

ここの立札では振り仮名なしで使われているようだけど、能登の人々からしたらよく見る文字ではあるんだろうか。まあ手前の案内板にはローマ字でルビ振られていたんだけど。

档の用途を知ろう

次は档の使い道について。ちょっとググった感じだと、建材として使われることが多そうだった。
https://ishikawanoki.ishikawa-moriren.jp/build/

こちらのサイトによれば、档は杉と比べて重くて硬くて腐食に強いという特徴があるらしい。針葉樹って裂けやすくて燃えやすくて広葉樹よりは脆いみたいなイメージがあったので、想像よりだいぶ強固な家を作ることができそう。

抗菌・防虫・消炎作用を含むヒノキチオールを豊富に含んでいて、そういった側面でも建材として優れているのだろう。そのぶん高価ではあるらしいが…。杉の3倍の値段だとする数字もあった。

また、どこで写真に収めたか忘れてしまったがこんな記載も見つけた。

文字が潰れてしまっているが、「膳・盆類の木地として用いる」とある

そう、輪島塗の地にも档が使われているのだ。買っておけばよかった…

輪島塗 – Wikipedia より拝借

「あて」の名前と字形について

先の「档の元祖」の説明書きを見てみると、档のルーツは12世紀とも16世紀とも言われているがどちらにせよ東北から伝来したとある。

この二本のアテは、藤原秀衡の三男泉三郎忠兵衛が、文治五年(一一八九)に奥州平泉より持ってきたものとも、天正年間(一五七三〜一五九二)に泉家十九代の兵右衛門が東北地方から苗木を持参したともいわれており、……

一方で能登の在来種を植林してるんだという説も見たのだが、こっちについては詳しくはよく分からなかった。いずれにせよアスナロ自体日本固有種であり、延いては档も日本固有のものとなる。はず。

関係ないけどアスナロは漢字で「翌檜」と書く。「明日は檜になろう」1でアスナロの名前がついたらしく、漢字表記にもそれが現れていておもしろい。

アテに関しても、何か「当てる」「当たる」ところからその名や字が採られたんだろう。ということで調べてみると、档という字の由来のひとつは東北伝来説による。

なんでも、東北から持ち帰ったヒノキアスナロは能登の地の風土に合っており良く「当たった」らしい。それでアテに档が当てられたとのこと。ダジャレにしてもあまりにもなんというか大雑把すぎる!!

石川県では一部地域で致死量わずか0.5~2mgの猛毒テトロドトキシンを含むフグの卵巣を、わざわざ3年くらい塩と糠に漬けて無毒化させて食べるという中々に勇猛果敢な食べ物がある(おいしいよ)。あれこそ開発段階では良く「あたった」んじゃないだろうか。
https://amzn.asia/d/0bLLmzfZ

漢字「档」についてあれこれ

まあそれは措いといて、当たった→档説の情報ソースには「『檔(档)トウ』をアテと読ませた」とある。この記述だけを見ると、档という字種は既知でたまたまアテについてもこう書くことにしたという流れに見えた。
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/ringyo/ate/documents/notonoate.pdf

たしかに檔(档、當は当の旧字体)は戸棚とか、玄関上がる時の段差を作る建材を指すカマチとかの意味がある既存の字だ。能登の人々はこの字を知って(あるいは使ってさえ)いながら、それでもなおアテを表すために档を当てたのだろうか?それとも偶然字形が同じになって、衝突という現象が起こっただけなのだろうか?

先述の通り、異体字「檔」もある。伝来してすぐにアテに漢字が当てられたとして16世紀、世の中に常用漢字なる概念は存在しなかった。

その頃は略字/俗字に対する概念という意味での正字は檔だっただろう。にも関わらず、能登滞在中及び記事執筆中に見たアテは全てが档だった。つまり档と省略して書いたほうが後世に伝わっているっぽいのだ。

広く市井に親しまれていた文字で略されて書くことが多かったとか、いや別にもともと當自体略して書くことが普通だったとかなんか色々可能性が考えられるが、ここでは深追いし切れないので措いておく。調査??そ、そのうち…

あと、誤字をあげつらいたいわけではないのだが、檔について「棺」、档について「不当」としているサイトを見つけた。OCRの不調とかそういう類なのだろうか。

結構検索上位だったし情報源として非常にありがたかったため、却って誤記を広めないようにここに記入させていただきます。

おわりに

「档」に出会えたおかげで、能登の旅は少しだけ寄り道が増えた。旅の計画には書けない収穫というやつだ。

偶然の出会いから能登の文化に触れられたのだから、費用対効果はかなり高い。こういう拾い物があると、旅はやめられない。

またどこかで、似たような“当たり”を引きたいものだ。

  1. 注:厚葉檜が訛ってアスハヒノキになり、アスナロの由来となったというのも見た。なるほど
    https://morinokakera.jp/?p=64074 ↩︎
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