神社名に猛禽類?高知・南予に点在する「はいたか」の神社【鷣】

いきもの

高知県の南西部を車で移動していた時だったのだが、地図をぼんやり眺めていると妙な名前が目に入った。

鷣神社。

読めないし、そもそも字面がかなり珍しい。鳥っぽい字ではあるのだが、稲荷とか八幡とか、そういう見慣れた神社名の並びへ置こうとすると急に空気が変わって、猛禽類だけが山道からぬっと現れたみたいな感じがある。

高知県西南部周辺の「はいたか」系神社分布

しかも調べてみると、高知県西南部にわりとまとまって分布しているらしく、さらに愛媛県側にもそれらしい名前が見える。

四国西南部へ広がる「はいたか」系神社

旅程の都合で今回は現地まで行くことができなかったのだが、高知県西部から愛媛県南予へかけてだけ妙に密度が高いその分布が頭に残ってしまって、移動中も何度か地図を見返していた。

鷣という字

まず気になったのは、神社より先に鷣そのものだった。

読みはイン、ヨウ、意味はハイタカ。

調べてみると、ハイタカというのはタカ科ハイタカ属の鳥で、猛禽類の中では比較的小柄な部類らしい。僕の感覚だとハイタカは普通「鷂」と書く印象があったので、「鷣」のほうをきちんと認識したのは今回がほとんど初めてだった。

しかもこの字、異体字として「⿰覃隹」も存在していて、『爾雅』にも載っているというから、かなり古い字らしい。見慣れないから新しい字、というわけではなく、昔から存在していたのに現代側が表示に苦戦しているタイプの漢字なのだろう。

ハイタカ自体ちゃんと見たことがなかったので、画像を調べてみた。

ハイタカ(Wikipediaより)

思っていたよりかなり整った顔をしていてかわいい。もっといかにも猛禽類っぽい鳥を想像していたのだが、割に小柄でどこかすっとした雰囲気がある。もちろん小動物側からすると全然かわいくないのだろうけど。

「はいたか」が神社になる

改めて神社側に興味を向けよう。高知県幡多郡には「鷣神社」がいくつも存在していて、さらに『高知県神社誌』では字ハイタカとかハイタカ山みたいな地名まで確認できた。

神社名だけが孤立しているわけではなく、「ハイタカ」という音そのものが地域の中へ入り込んでいるような感じがある。

最初に見た時にどうしても頭に浮かんだのが、「稲荷神社は狐だが、ハイタカ神社はハイタカが神の遣いなのか?」という雑な連想だった。もちろん実際にそういう信仰なのかはわからないのだが、神社名として猛禽類が前面に出てくる感じはかなり珍しく見えた。

しかも高知側の鷣神社を見ていくと、祭神もかなりばらつきがある。倭武命を祀っていたり、鷣八皇子や十六皇子がいたり、祭神未詳だったりするので、「鷣神社」という名前だけで単純に同系列の神社群だとは言い切れなさそうだった。

名前は揃っているのに、中身はわりと自由なのである。

愛媛側の「拝高」

さらに愛媛県側を調べていくと、話が少しややこしくなる。『愛媛県神社誌』を見ると、「はいたか」という読みを持つ神社として、「早高」「⿰票鳥 鷹」「拝高」といった表記が挙げられていて、鳥類だったはずのものが急に「拝む高」へ変わる。

どうも愛媛側には、「高貴なものを拝んだ」ことを由来とする南朝伝説系の話が存在するらしく、後醍醐天皇や懐良親王と結びつけて語られる場合もあるようだった。

つまり、

  • 鳥としてのハイタカ
  • 高貴なものを拝む拝高

という二つの文脈が、同じ「はいたか」の中へ重なっている可能性がある。

ただ、このあたりはまだはっきりしない。「鷣神社」と「拝高神社」がどこまで直接つながっているのか、あるいはどちらが古いのかについては、今回調べた範囲では断定できなかった。

また、宇和島蒋渕大島の神社については、「⿰票鳥 鷹」という独特な表記も確認できた。これは難字である鷣を分解して表現したものらしいのだが、活字上の都合なのか、あるいは読みを補助するために「鷹」を添えたのか、そのあたりもまだよくわからない。

⿰票鳥 !!

因みに⿰票鳥に関しては僕は誤字だと考えている。ただ、表示できない字が、分解されたり補足されたりしながら残っていく感じはかなり印象に残った。コンピュータや活字の側が難字に追いつけず、結果として字の形そのものが少しずつ変わっていってしまう。

よしなしごと

あと、宇和島の多賀神社で猛禽っぽい羽を見つけた。

宇和島・多賀神社で見つけた羽

これがハイタカだったらちょっと面白いなと思ったのだが、普通に別の鳥かもしれない。
有識者意見求む。

あと鷂の字を見ていて、バーチャファイターの晶に「鷂子穿林」という技があったのを思い出した。相手の懐へ潜り込むような技なので、その動きをハイタカと準えたんだろうか。

今回は結局、鷣神社そのものへ行くことはできなかった。ただ、高知県西南部から愛媛県南予へかけて、「はいたか」という音が神社や地名や伝承の中へ広がっている感じはかなり印象に残った。

旅先で地図を眺めている時に偶然見つけた「なんか気になる」としては、かなり大きな存在だったなあと思う次第である。

参考資料

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