漢字と湯呑み
最近は寿司屋に行っても、魚偏の湯呑みを見なくなった。代わりにダイソーに売っているのを見たが、寿司屋の記号としてチープなものになってしまったということなのだろうか。
念の為だが、ダイソーをdisっているわけではない。こちとらザ・ダイソーの頃からファミリーダイソーなる謎の店まで行ってたくらいだ。DAISO万歳。
子供の頃、難読漢字といえば魚偏みたいな風潮があった。僕たち漢字好きは、鮪や鮭などアクセシビリティの高い魚はもちろん、鯯や鮴などといったどこで食えんねんそれみたいな魚も湯呑みから学んできた。

美味しいし身近だったからなのか、魚偏の漢字は湯呑みに留まらずあらゆる所で漢字知識のバロメーターになっていたように思う。魚偏の字の読みを問うタイピングゲームで何を調べても答えが出なくて迷宮入りしたり、魚偏に◎を書いて「ちくわ」と読むんだみたいな話がまことしやかに伝わったり。
とかくその魅力は留まるところを知らない。
僕らにとって難読漢字への入口となってくれただけでなく、魚偏の湯呑みには大きな功績があると思っている。それは、「同じ部首による文字の集合」の拡散である。
浅草には町田絲点という糸や紐類の販売店がある。そこでは緒や縋などが並んだ糸偏サンシェードがかかっている。

魚偏は寿司屋に、糸偏は糸屋に。餅は餅屋ということだ(?)
また、企業によるノベルティでこんなものもある。
電偏とでも呼べばよいのだろうか、見たことのない造字だらけでなんとも心が躍る。これはPanasonicがまだナショナル電気だった頃のイベントで配られたものらしい。今全然売ってなくて正直かなり羨ましい。誰か売ってくれないかな。でもプレミアとか付いてるんだろうな。
今日び、同一カテゴリの漢字をたくさん並べたものは魚偏の枠を越えて来ているのである。
女偏の湯呑み
そんな中、少し前に旅先で買った同じ部の字の寄せ集めを見せびらかしたい。

ご覧の通り、女偏の漢字である。ただ気をつけたいのが、これらはたぶん全てが架空の漢字。その名も桃用漢字である。当用漢字のパクリだこれ。
どうして「桃用」かというと、こちらの湯呑みは部首を揃えただけでなくほとんどの字の読みすらスケベなものに統一されているからだ。例えば⿰女撫 は「ちかん」、⿰女幕 (膜ではない)は「しょじょまく」、⿰女⿱上下 はなんと「さいちゅう」である。やかましいことこの上ない。
全部右側のパーツで意味を表している「会意」による作字かと思ったら、⿰女筒 で「つつもたせ」なんてのもあった。
もともとは博徒が細工した筒を持たせたことが語源らしく、「筒持たせ」の表記があったらしいので会意とも言えるが。
なんでこんなものが竜飛崎に売っていたんだろう。恐らく名産でもなんでもないし。当然女性を寿司に乗っけてもいなかった。
少し調べた所によると、宇和島の凸凹神堂なる所でこれを書いた手拭いが売られているらしい。なんでも秘宝館みたいな場所だとか?
ただ、桃用漢字なるものがそこのオリジナルなのかどうかはよく分からなかった。
まあとにかく「お湯を入れると色が変わるよ」とか、「せっかくだし買いなよ(?)」などの説得を聞き流しつつ、文字のためだけにこの桃用漢字を買ってきた。まだお湯を入れたことすらなく部屋に飾りっぱなしにしてある。
桃用漢字と既存の字との字形の衝突
さて少し気になった。これらは本当に全て完全に架空の漢字なのだろうか?
この桃用漢字、ひとつ判じ絵みたいなものがあるのだがそれを除くと全部で38文字ある。
そして大体の旁は既存のパーツを流用していそうだ。中には⿰女H で「すけべ」というアルファベットとの融合も見られるが。いいなこれ、⿰男H で「すけべ」も作ってくれないだろうか。
女部は常用漢字だけでも30字以上ある大規模な部である。桃用漢字38種にだって、きっと字体の衝突があるに違いない。というか娚(夫婦の意、桃用漢字だと上下に配置されて「ちゃうす」。騎乗位のことである)とかは既に存在することを知っている。
手持ちで一番大きい辞書が大漢和辞典なので、それを使って衝突を調べてみた。
結果は以下のとおりである。
★字体の一致が見られたもの…8字
| 旁 | 桃用漢字の読み | 衝突字形 | もとの意味 |
|---|---|---|---|
| 貝 | あかがい | 㛝 | 女性のあざな |
| 豆 | あそこ | 㛒 | どもる、姓のひとつ |
| 非 | おかま | 婔 | たちもとおる、醜い |
| 足 | ふとい | 娖 | 慎み深い、整える など |
| 舌 | うるさい | 姡 | 悪賢い、厚かましい |
| 炎 | もえる | 婒 | 女性のあざな |
| 全 | すべてを | 姾 | 女性のあざな |
| 見 | すとりっぷ | 娊 | 女性の腰の細いさま、女性のあざな |
2割くらいは大きい辞書にも同じ形が載っていることになるが、当然意味は全然違った。娊はちょっと近しいものを感じなくもない。
そして、同形ではないが構成要素が同じだったり似ていたりするものもちらほらあった。
★字体は一致しないが、惜しいもの…12字
| 桃用漢字 | 桃用漢字の読み | 形が近い文字 | 形が近い文字の意味 |
|---|---|---|---|
| ⿰女貝 | あかがい | 嬰 | |
| ⿰女波 | としま | 婆 | |
| ⿰女撫 | ちかん | 嫵 | こびる、うつくしい |
| ⿰女稼 | ひも | 嫁 | |
| ⿰女非 | おかま | 婓 | さまよう、神女など |
| ⿰女冷 | おしり | 姈 | 女性が賢いこと |
| ⿰女洩 | おつゆ | ⿰女曳 | けがす、乱れるなど |
| ⿰女金 | へそくり | 釹 | ネオジム(元素名の中国語) |
| ⿰女爪 | ひっかく | 妥 | |
| ⿰女⿰毛無 | ぱいぱん | 㚪 | えやみのかみ(疫病神) |
| ⿱男女 | ちゃうす | 娚 | 夫婦 |
| ⿰女H | すけべ | 妅 | 女性のあざな |
妅とか少々の反則を交えつつ、女部の漢字の幅の広さを感じる。当然だが辞書的な意味はエロ系ではなく、特定の役割や姿態など女性の様々な側面を切り取って文字にしているのだが。
さいごに
こういった文字があったよーという情報共有なので、僕個人の思想信条などとは一切関係ありません。繰り返しだけど念のため!以上!!


