狩猟免許で広がる漢字の世界――“擌”って読めますか?

いきもの

狩猟にまつわる漢字がいっぱい、狩猟免許

世の中のありとあらゆる料理を食べてみたい。それはいわゆる多国籍料理などこの国で食材として受け入れられやすいものに限らず、よく分からん虫とか発酵と腐敗の紙一重みたいなやつとか、はたまた法律の壁に阻まれこの国で食べる許可が下りないようなものを含めてである。

今はハードル低めのものだとヤンソンさんの誘惑というアンチョビグラタンのような北欧の料理と(名前がかっこいい)、ハードル高めのものだとキビヤック(アザラシの腹に鳥を詰めて地中に埋め、醗酵させて中の汁を啜り食う料理。日本で食べる方法を知らない)というエスキモーあたりの料理が気になっている。

これは人類共通の欲求だと思っていたが案外そうでもないらしい。いわゆる「奇食」という趣味のジャンルがあり、昆虫食もそのへんの雑草も、シュールストレミングも一緒くたにその函に投げ入れられることが多いような体感がある。

「あんま日頃食べないもの」の中でも比較的抵抗感が少ないのはジビエだろう。少し前にブームになった記憶があるが、猪とか鹿とか野山にいる動物を狩ってきて食うアレである。gibier(仏)は食料目的で狩猟捕獲された鳥獣を指し、日本ではアナグマや一部のカモなんかを捕獲できる。

2年前くらいにふるさと納税でキョンの肉を買って食べたことがあるが、首の肉はサクサクとした食感で、蛋白質を感じる味で美味しかった。

正確にはキョンは狩猟鳥獣ではなく害獣駆除の文脈で出てくるためバカスカ捕獲するわけにもいかないのだが、国内の野山にいる鳥獣はわりかし自由に捕獲して良いとなれば、その味を試してみたいと思うのは当然のことだろうと僕は思う。

この夏、狩猟免許の一部であるわな猟免許を取得した。鳥類と熊類以外の狩猟鳥獣を捕獲できる免許である。諸々の手続きを経ないといけないが、晴れてハンターとなった。

狩猟免許は法律とか狩猟鳥獣とその痕跡の判別とか、猟具の取り扱いなんかが問われる。基本的には「狩猟読本」なるものを購入し、試験範囲を網羅的に学んでから試験に臨むという流れ。

法的に使用して良い猟具や鳥獣の解体に伴う内臓の位置などこれまで全然馴染みのなかった知識を身につけるにつれて、当然新しい漢字やことばとの出会いも増えていった。免許更新のタイミングでもなければ狩猟読本をしっかり読み直すタイミングもそれほどないだろうし、備忘のために書き残しておく。

なお、試験範囲から外れる鳥類の生態や銃器の取り扱いのページはあまり見ていない。ここにも面白そうな言葉がたくさんありそうではあるが。

ヤマドリ(鵫、鶡、鸐雉)

狩猟対象の鳥。「山鳥の尾のしだり尾の…」でおなじみ、体長と同程度の長さの立派なしっぽを持つことだけ知っている。

広辞苑には「雌雄が峰を隔てて寝るという伝承があり、古典文学では『ひとり寝』の例えとして用いられた」とあり、ああ「ながながし夜をひとりかも寝む」ってそういうことだったのかーと納得した。

また、肉が食用らしいので興味はあるが今の僕の免許では捕獲できない。悔しい。

それぞれ文字は形声だった。当たり前か。

コジュケイ(小綬鶏)

同じく狩猟対象の鳥。見た目にはなんともかわいらしいが、地域によっては騒音問題の種となる困ったやつである。

は印綬とかの用例があり、もとは印章などの勲章をぶら下げて身につけるための紐状のアクセサリーを指していた。今でも紫綬褒章なんかで見るこの字は、メダルをぶら下げる紐のことも指している。

ちなみに日本の褒章はの6種類ある。青系統多くないか…?

コジュケイはジュケイに似ている小型の鳥という意味で、首下の色づいた赤い部分を綬に見立てた名づけのようである。

ジュケイ(wikipediaより)

コジュケイの「綬」は灰色銀色。ジュケイよりも偉そうな色ではある。

ガビチョウ(画眉鳥)

狩猟鳥獣ではない。狩猟鳥と間違えやすいから気をつけてーみたいな文脈で出てきた気がするのだが、罠猟免許だとあまり鳥について問われないので忘れてしまった。

字の由来は見た目の通りであろう。中国語で画眉というのをそのまま読んでつけたらしい。

ニュウナイスズメ(入内雀)

狩猟鳥獣。スズメとは違って山林に住むらしい。よく見るとスズメと顔も違う。

ニュウナイスズメ(Wikipediaより)

「ニュウナイ」の語源には大きく3説あるらしく、入内を当てるものについては以下のものがある。Wikipediaより引用。

平安時代に陸奥守として東北地方に左遷され、現地で恨みを抱いたまま死去した貴族、藤原実方が本種に転生して宮中に入り込み、納税された米を食い荒らしたという伝説がある。宮中(廷)にる雀、ということで入内雀

ニュウナイスズメ – Wikipediaより

説としては面白いなあと思いつつ、「入内(じゅだい)」と関連している…?でもそう読むときは宮中に嫁ぐときだしな…?とも思う。

ちなみにこの伝説のように稲を食い荒らすと信じられており、それで狩猟鳥に指定されているとのことである。かわいそう。

イイズナ(飯綱)

非狩猟鳥獣。テンとかオコジョとかイタチとか、なんとなくイメージが近い動物がたくさん出てくるため、間違えないように区別として学んだ。

画像が見つからなかったのでwikipediaのリンクを掲載。

イイズナ - Wikipedia

またしても曰くのありそうな文字である。飯綱山(長野県)の修験者がこの仔を用いた妖術を行っていたということから名づけられたらしい。

管狐という妖怪(?)の一種がイイズナをもとにしているようだ。

狩猟読本で見るとイイズナはかなり体長が小さく、なるほど管に入るサイズの狐というネーミングもうなずける。

趾球・蹠球

後ろ足の肉球を分けて呼ぶときの呼称。それぞれ「しきゅう」「しょきゅう」と読む。

肉球をあまりパーツで考えたことがなかったが、まあ人体も細かく名称分かれてるしな。趾球が指みたいな位置にある4~5個くらいの肉球、蹠球が根元にある手のひら みたいなところの肉球。

は足のゆびを指し、は足の裏を指す。

跗蹠長

「ふしょちょう」と読む。は足の甲を指し先述の通り蹠は足の裏を指すが、跗蹠骨で鳥の骨の名前のことである。鳥の脚を想像してほしいのだが、3股だか4股だかに分かれている足の指と、膝と逆方向に曲がっているよくわからない関節があると思う。鳥が好きな人、僕は無学なので許せ。

足の指の付け根とよくわからない関節をつなぐ骨を跗蹠骨と言い、これが人間でいう足甲とか足裏の骨になるらしい。

あれ、鳥っていっつも爪先立ちしてるってこと?人間より脚の骨の比重低そうなのに。

鳥の体長を測るのに参考にするらしい。例えばフラミンゴとか跗蹠長がめっちゃ長いことになるのかな。狩ったら違法だけど。

正直狩猟免許の勉強中に一番テンション上がってたのはこの文字を知ったときである。シカの解体方法とかも載ってたのに。罠の一種で「はご」と読む。

ドラえもんの道具に「テレビとりもち」というのがある。棒の先端になんかぶよぶよした物がついており、それをテレビ画面に突っ込むとテレビの中のものを取得できるという恐ろしい道具である。

なるほどなるほど、テレビからものを「取って」くる「お餅」なのか!

はたと手を打った記憶があるが、これが「取り餅」ではなく「鳥黐」という鳥の捕獲具だと知ったのはだいぶ後になってからだった。

実物を見たことはないのだが、噛んでる途中のガムみたいなネバネバした物で鳥を捕らえるものを黐と呼ぶ。かつてはモチノキの樹皮などを原料としていたようで、黍(きび)がついているが字義に穀物は関係ない。

こちらによると、ネバネバした物に関連する字も黍部に属するそうだ。
https://kanjibunka.com/kanji-faq/mean/q0524

とは、地面や樹上に立てた棒にこの鳥黐を塗っておく仕掛けのこと。おとりをつかったり大量に仕掛けたりすることで、やってきた鳥をくっつけて捕らえる仕組みみたい。

ただし現行では鳥黐による狩猟は違法であり、当然この擌も使えない。

鳥を捕らえる仕掛けとして古くから使われていたようで、10世紀の和歌集には載っていた。

また鳥を捕らえて離さないことから、借金で首が回らなくなったことも指すらしい。
こっちは合法の擌である(?)

おわりに

晴れて狩人になるわけだが、動物より先に新たな語彙をたくさん捕まえてしまった。そういえば彙の訓読みは「はりねずみ」だな。

まさに「言葉狩り」である。お後がよろしいようで。

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