【白文帳】長野だけで使われる漢字練習帳を手に入れたので使ってみた!!

くらし

レアアイテム(?)との邂逅

「あったーー!!」思わず叫んでしまった。ここは長野県、某ホームセンター。同行者の怪訝な目を感じつつ、数年来探していた「それ」に興奮が止まらなかった。

いや別になんのことはなくて、僕が見つけたのはこれである。

ででん!

黄色の背にクリーム色の表紙というシンプルなデザインの冊子。表紙には「白文帳」とのみ書いてある。

中を開くと書かれているのはマス目のみ。表紙の通りこのノートの名前は白文帳、長野県でのみ使われる漢字練習帳だ。

白文帳…?

正直、長野県に行くたびにこの白文帳を探していた。安曇野でも軽井沢でも長野市でも…でも全然見つけられなかった。僕の探し方が悪かった?

日本一綺麗な星空のある場所、原村にてやっとこさ入手できた。

そういえば野沢市出身の友達は白文帳の存在を知らなかった。白文帳に対してなんとなく「長野県で使われている漢字練習帳」という認識を持っていたが、県内でも地域差があるのかな?

そんな白文帳、昭和10年代前半に長野県松本市の漢文教師が考案したそうだ。返り点や振り仮名などのない、漢字のみの状態の漢文(もともと漢文ってそういうもんだとは思うが)のことを白文と云うし、この名前も頷ける。

その後松本市内の中学校で使用が開始され、ゆくゆくは長野県内に広まっていったようだ。今では漢字練習だけでなく、算数や自由な落書きのノートとしても使うという記述も見た。

ちょっと待ってほしい

さて、マス目の画像をもう一度ご覧いただきたい。

1ページにはマス目のみが13×18個、計234個のマス目がある。具体的な使用シーンへの理解は浅いのだが、白文帳1ページを漢字練習で埋める宿題なるものもあるらしい。

原稿用紙半分強と考えるとそんなに多く感じないが、特定の文字を練習のために書き続けると考えると中々の苦行鍛錬である。

昨日は「静」、今日は「議」、明日は「観」なんて時もあるんだろう。流石に一字種で234マスを埋めることはないと思うが…。画数の多寡に一喜一憂しながら、鉛筆を削り、机に向かう。その積み重ねで長野県の子どもたちは漢字力を身に着けていくのだろうか。

長野県の漢字力

白文帳の教育利用はほぼ長野県に限られるらしい。この独特な学習は、実際どのくらいの効果があるんだろうか?

いや、白文帳の効果を疑ってるわけじゃない。ただデータがどうなってるか気になっており。漢字の骨格や書きぶりを身に付けるのに反復練習は効果的だし、白文帳がそれに資するのは疑いない。

…個人的な立場として、必要以上の反復はあまり推奨していないが(苦しいので)。

2018年度のデータで恐縮だが、小学生から高校生までの都道府県別漢検受験者についてのサマリーが漢検協会によって公表されている。https://www.kanken.or.jp/kanken/topics/pressrelease_kanken_20190912.pdf

これによると、長野県全体での漢検合格率は62.10%でなんと奈良県に続き全国2位。小学生の合格率が89.70%で全国5位と非常に高く、また受験者数は15,743人で全国11位である。実をいうと人口が全国16位らしいので、取り立てて受験者数が多いというわけではないかもしれないが。

細かい数字は割愛するが中学生の合格率は全国17位、高校生では32位まで下落する。このデータだけでは多様な解釈の余地があるけど、比較的単純な構成の漢字については反復する習慣づけによって定着しやすいという見方もできるのではなかろうか。

実際に使ってみよう!

さんざん白文帳について好き勝手述べてきたが、やっぱり実際に使ってみないと。

漢字が書かれた白文帳をいくつか調べてみると、マス目を柔軟に使っていることに気付く。一列一単語で見本→反復→最後にテストという構成にしたり、ノートを横向きに使って縦書きにしたり。マス目だけが書いてあるからか、一般の漢字練習帳と比べると自由度が高いのかなと感じた。

ひとまず見本を書いて、漢字の反復練習を1ページ使ってやってみた。小学校で習う漢字を画数が多い順に並べて、それぞれで用例を引っ張ってきた。

みほんを書いた。インクがかすれている

残る200マス程度をひたすら鉛筆で埋めていく。

宿題開始!

おおー。鉛筆で漢字の反復をするのは久しぶりだ。それこそ小学生の頃を思い出すなあ。小学生で習う漢字は大体既に知っていたし、数ある宿題の中で一番しんどくて朝に慌ててやっていた記憶がある(やりたがらないくせに提出できないのも嫌だったのだ。生真面目)。

最初の3割くらいは新鮮な気持ちで取り組んでいたのだが。

多いな…

まずい、つらくなってきた。というか、やはり同じ漢字を連続して書いていると途中で覚えようという脳から手を無心で動かす脳へと切り替わる。

書き終えたー

1ページ埋めて、大体30分くらいだろうか。もともと知っている文字や言葉だけを書いた点、初めての白文帳でとにかくページを埋めることを目的にした点などは差し引く必要があろうが、毎日これをやるのは大層な鍛錬だと感じた。長野県の子供たちはこれを1年365日休みなく課されることもあるそうだ。高校生になっても使っていたという情報も見た。

さいごに

おそらく当地の人々は、白文帳との”ちょうどいい距離感”を心得ているのだろう。記憶に残りやすい記載順や、無理なく続けられるページの使い方——長い時間のなかで自然と編み出された作法のようなものが、きっとある。

近年は白文帳を廃止する学校も出てきていると聞く。それでも、百年近く連綿と受け継がれてきたこの習慣は、単なる教材の枠を超え、土地の学びの風景そのものとして根を張ってきたはずだ。

白い紙面を黒々と埋めていく営みは、時代が変わってもなお、かたちを変えながら長野の子どもたちの漢字力を静かに育て続けている——そんな気がしてならない。

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