「饅」という食べ物
漢字が文字として歴史を歩んできた以上、衣食住とも密接に関わってきたことは想像に難くない。今食べているものだって、掘り下げてみれば見たこともないような文字と関わりがあるかもしれない。寿司屋の魚偏の湯呑みにも、まだ見ぬ漢字が溢れているように。
「饅」という食べ物を取り上げたい。文字は見覚えがある人も少なくないと思うが、おまんじゅうのマンである。
饅頭(そういえばマントウとも読むな)、餡饅(漢字表記のあんまんなんてほとんど見ないか)くらいでしか見る機会のない字だが、一文字で「ぬた」と読む場合は全く異なる食べ物を指す。
言ってしまえば和え物であり、簡単かつ美味しいので作ってみてはどうだろうか。
饅の作り方
材料

- 白味噌:酢:砂糖…同量ずつ(☆)
- からし…お好みで(☆)
甘めがいい場合は適宜砂糖の割合を増やすと良い。
- 葱…半分から1本くらい
- わかめ…半つかみくらい
- まぐろ刺身…数切れ
- 青柳(今回はあさり)…ひとつかみくらい
正直、酢味噌があればあとは何でもいい。好きな魚介を入れたらいいし肉でもたぶん美味しい。野菜に関してもネギとかニラとかニンニクとかの香りが強いものと相性がいいが、美味けりゃ何入れてもいいと思う。からしも砂糖も無くてもたぶん「ぬた」である。
作り方
①☆を全部混ぜ、酢味噌を作る

②葱は5cmくらいに切り、わかめも大きければ半口大くらいに切る。サクで買っていたら刺し身も切る。


③鍋に水を沸かし、長ネギを白いところから入れて緑の部分の色が変わる前に引き上げる。

④ボウルに材料を全て入れ、①を入れてよく混ぜる。


具は鮪と浅蜊にしてみた。
もちろん味は言わずもがなだが、海鮮の脂を酢味噌でさっぱりと辛子できりっと頂ける。簡単に作れる割にたんぱく質を増やせば栄養バランスも整えられるし、酒呑みにはアテにもなる。夏バテなんかにはぴったりだと思うのだがいかがだろうか。今冬だけど。
「ぬた」について
「ぬた」とはもともと沼地や泥深い田んぼのことを指し、「沼田」と書かれることが一般的のようだ。イノシシが入浴のためにその身体を泥にこすりつけながら身じろぎした痕跡をヌタ場というが、同じような場所を指すっぽい。

この「ぬた」は日本中で見られたようで、各地で「ぬた」の読みを持つ様々な漢字が使われているのだがそれはそのうち拾い集めたい。
ともかく、この「ぬた」なる食べ物に使われるぬらぬらてらてらした酢味噌が、同じくどろどろぬらぬらした「沼田」に準えて名付けられたみたいだ。
「饅」と「ぬた」
それでは、饅が「ぬた」を意味するのは何故だ??
笹原宏之氏によれば、饅はもともと[まんじゅう]を表す物体を示すためだけに作られた形声文字であった。かつては蛮、曼などの同音異字で充てられていた[まんじゅう]を表すため、新たに作られたという。

この[まんじゅう]、牛肉や羊肉を皮で包んだものらしい。今の肉まんの走りだろうか?神に捧げる生首の代替として作られたという伝承も伝わっているようだが、なんともおいしそう。ラムまんみたいなものを食べたら原初のまんじゅうに思いを馳せることができそうだ。おなかすいたな…
同記事で肉饅の具が豚肉と野菜であることを沼田に準えた?というご推察があったが、恐らく2008年の記事公開時点では明確な由来は判明していないのだろう。
大漢和辞典には饅の字釈として「ぬた」を意味する用例はなかった。ただし「饅茹(ぬた)」という熟語などが載っているが。国訓と認識したらよいのだろうか?
食べ物の「ぬた」に饅を充てるのは『日葡字書』(1603、慶長8)では既に行われており、また沼田は12世紀前半の和歌に例がある。饅頭伝来のひとつの説では鎌倉時代以降に円爾という禅僧によって中国より伝わった。ここでは既に「饅頭」の表記があったようだ。
おわりに
12世紀くらいには饅頭そのものが伝来し、そこから500年程度の間に「饅」は沼田及び「ぬた」のイメージを持たれるようになった。だいぶ期間が開いてしまっており、まただいぶ曖昧な結論で締めくくることになってしまうが、さくっと調べられるのがこの範囲だったので許してほしい。
それに饅頭伝来についてはまだまだ分からないことが多いって参考にした本(青木直己『図説 和菓子の歴史』)にも書いてあった。ぬたもそんな感じだろう(?)
ラムまん食べに行ってきます🐏

